そんなことを考えながら、逃げるように手元の携帯に視線を落とした。
液晶に映し出されていたのは、今朝、琥珀から届いたメッセージだ。
《昨日話した件、教授からあっさり許可貰えたよー。
ただうちの教授って吸血鬼の資料扱ってる癖に吸血鬼のこと嫌いでさ…できれば君1人で来て欲しいんだ。
この前一緒に来てたお友達も、吸血鬼でしょ?
今日の放課後なら俺も暇だから、胡桃さえよければおいでよ。》
まさか、こんなに早く話が進むなんて思ってもみなかった。
あの貴重な資料を、外部の私が閲覧できるなんて。もっと時間がかかるものだと覚悟していたのに。
もし行くなら、また時雨くんか、叶兎くんと一緒に行こうと思っていたけど…。
“できれば君1人で来て欲しい”“吸血鬼のこと嫌いでさ”
その文が、少しだけ引っかかる。
一応、二人には事情を伝えた。
その結果、妥協案として大学の門までは車で送ってもらうことになったのだ。
叶兎くんも昨日のツケが回ってきたのか書類が山積みらしく、今頃は執務室で不機嫌そうにペンを走らせているはず。
…大学に行くだけなんだけど……昨日、時雨くんが言っていた言葉が、ふと頭に浮かぶ。
“………なんか胡散臭いから、あんまり信用しない方がいいかも”
…いや、考えすぎかな。
ただ大学の資料見に行くだけだし。
そうこうしているうちに、車は大学の正門前で静かに停車した。
外へ出ると、秋の陽射しが優しく世界を黄金色に染めていた。
銀杏並木が風に揺れ、カサカサと乾いた音を立てる。
大学の正門を抜けると、キャンパスの喧騒が耳に届く。
学生たちの笑い声、ベンチでノートを広げる集団、カフェテラスのコーヒーの匂い。平日の午前、大学は活気に満ちていた。


