思わずばっと手で首元を押さえる。
……そ、そういえば昨日、吸われた痕そのままになってたんだった…!
慌てて、肩にかかっていた髪をがさっと前に流す。
首元を覆い隠すように横へ寄せて、念入りに鏡を覗き込んだ。
……うん。たぶん、見えない。
自分に言い聞かせるように何度も確認してから、逃げるように部屋を飛び出した。
玄関を出ると、すでに車が用意されていた。
黒い車体が朝の光を反射している。
車に乗り込んだあと、シートに深く身体を預けて小さく息を吐いた。
さっき慌てて髪で隠した噛み跡。
ちゃんと隠れてるはずなのに、なんだか落ち着かない。
屋敷を出る前、玄関で叶兎くんに見送られたときも、もしかして気づかれてるんじゃないかって、変にどきどきしちゃったけど…。
「いってらっしゃい」
額に軽くキスされただけで、それ以上は何も言われなかった。
……昨日はかなり酔ってたみたいだし覚えてないのかな、この痕のこと。
それとも、わざと……?
叶兎くんならやりかねない。
叶兎くんなら、平然とした顔をして、私が困るのを楽しんでいる可能性だってある。
指先で首元をなぞると、どうしても昨日のことを思い出してしまう。
でも。
なんだか、少しだけ叶兎くんのことを感じられる気がして。
この痕があるのも、悪くないと思ってしまう自分がいる。
……とはいえ。
見えるところには残さないで欲しい……!


