──叶兎くん。
振り返らなくても、誰だかすぐに分かってしまう。
「大丈夫!そんなに重くないよ」
私は慌てて平静を装いながら、段ボール箱をぐっと抱え直した。
中身は着替えの服と少しの本、あとは洗面用具などの細々とした日用品だけ。
そもそもこの寮に引っ越してきた時に持ってきた荷物が少なかったから、1年経ってもそんなに荷物は増えていない。
……とはいえ、やっぱり女の子の腕力からすれば、それなりにずっしりとした重さがあるのは事実で。
カッコつけて抱え直した瞬間、自分の体足元がふらりとよろけそうになってしまう。
そんな私の不格好な手元を一瞬だけ見つめると、叶兎くんは可笑しそうに「くすっ」と口角を上げた。
「無理してる顔」
「してない」
「してる」
そして、叶兎くんは私の手からひょいっと軽々と段ボール箱を奪い去ってしまった。
吸血鬼と人間の腕力なんて、天と地ほどの差があるから比べものにならないのは分かってるけど、私が両手で必死に抱えていた荷物を、叶兎くんは片手で何でもないように軽々と持っているのを見るとなんだかちょっと悔しくなってしまう。
「……ありがと」
「どういたしまして。」
叶兎くんは満足そうに微笑むと、空いた方の手で、当たり前みたいに私の頭をぽん、と優しく撫でてくれた。
付き合い始めてから、それなりの月日が流れた。
こうして手を繋ぐことも、隣に並んで歩くことも、体温を近く感じることも。
もう最初みたいに、いちいち心臓が破裂しそうなくらい動揺したりはしなくなる……はずなのに。
やっぱり、叶兎くんに触れられると、胸がぎゅっと締め付けられるくらい甘くドキドキしてしまうし、愛されていることが嬉しくてたまらなくなってしまう私がいた。


