橘さんは私から無理やり視線を逸らすけど、その額にはじっとりと薄い汗が滲んでいて、胸元は浅く苦しげな呼吸を繰り返していた。
「……ただの、寝不足だ。本当になんでもない」
「……顔、真っ白ですけど。本当に大丈夫なんですか……?」
心配で一歩近付くと、橘さんはきつく唇を噛み締めて黙り込んでしまった。
否定の言葉が出てこないこと自体が、何よりの答えだった。
「……平気だから。おとなしく、部屋にいろよ」
掠れた声でそれだけを言い残し、橘さんは近くの壁に弱々しく手を突きながらおぼつかない足取りで部屋を出ていってしまった。
パタン、とドアが閉まり、足音が遠ざかる。
「……平気なわけないのに……」
ぽつりと呟いた言葉が、冷たい部屋に虚しく消える。
あのふらつき方はどう考えても尋常じゃなかった。
ただの寝不足だけで、あそこまで顔色が悪くなって倒れそうになるはずがない。
どこか体調を激しく崩しているのか、それとも、私には分からない何か別の深刻な理由があるのだろうか。
……ハンターの中でも、何かが起きてる…?
橘さんだけじゃない。
思い返せばここに私を連れてきた琥珀だって、いつもへらへらしているくせにどこか余裕がないように見えた。
今、このハンター本部の建物全体に、肌がヒリつくようなぴりぴりとした緊張感が漂っている。


