「……朝宮さん、なにやってんの」
「あ、橘さん…」
部屋に一歩足を踏み入れた橘さんは私の姿を見た瞬間、完全に動きを止めた。
その冷ややかな視線が、デスクの上に散乱した資料と、開きっぱなしのパソコン画面へと向けられる。
どこからどう見ても、「おとなしく部屋で待っていました」という形跡じゃない。
橘さんは呆れたような、でもどこか半分諦めたような深い吐息をこぼしながらゆっくりとドアを閉めてこちらへ歩いてきた。
「……暇だったので。」
気まずさに頬をひきつらせながら、私は苦しい言い訳を口にする。
「暇だからって、ハンター本部の資料を漁るやつがあるか」
ぐうの音も出ない正論に、私は思わず首をすくめた。
けれど私を咎めるような言葉とは裏腹に、橘さんの視線はパソコンの画面にちらりと向けられている。
画面に表示されたままの『V計画』という文字が目に留まったその瞬間、橘さんの顔がわずかに強張ったのを私は見逃さなかった。
…やっぱり何かある…?
確信めいたものを感じて、私はごくりと唾を呑み込み思い切って声をかける。
「……ダメでしたか?」
「ダメに決まってるだろ。ここは子供の遊び場じゃないんだ」
橘さんは呆れたようにため息をつきながら、デスクに散らばったファイルを一つずつ丁寧に端へと寄せ始めた。
口調はぶっきらぼうで怒っているようにも聞こえるのに、その手つきは優しい。


