車は二人の前で一時停止すらしなかった。
まるでゴミでも撥ね飛ばしたかのように、二人を引きずるようにしてそのまま闇の中へと走り去っていく。
画面のアスファルトの上には、黒いインクをぶちまけたような、長い血の跡が不気味に線を引いていた。
──どういうことだ…?
こんな血の痕跡なんて残っていなかったはずだ。
そもそもこんな映像、見たこともない。
俺が調べた時に見た映像とも、警察から聞かされていた「居眠り運転による不運な正面衝突事故」という説明とも、何から何まで違いすぎる。
「……ここ、よく見てて」
楪くんが映像を、ある一瞬の場面で一時停止させた。
車が走り去る直前、後部座席のドアがわずかに開き、中から一瞬だけ様子を伺うように外へ降りてきた人物の姿が映り込んでいた。
……やっぱりこんな映像、警察の記録には絶対に存在しなかったはずなのに。
映し出された人物は深くフードを被っていて、顔の大部分は影に隠れてよく見えない。
だけど、カメラの角度の微かな隙間から覗いたその不気味な男の横顔には──強烈な見覚えがあった。
「今ネットで大炎上してる動画の件と同じくらい、この映像も、『編集』が上手いよね」
楪くんが皮肉たっぷりに微笑んだ。
……まさか、そんな……ことが。


