「天音くんはたしか、本部の方に来るんだよね」
「うん。見習いだけどね〜。」
天音くんはそう言っていつものように軽く笑ってみせたけど、その声にはほんの少しの不安と、それを上回る確かな覚悟が混ざっていた。
ヘラヘラとした態度の奥にあるその瞳は、逃げずにしっかりと真っ直ぐ前を見据えている。
天音くんは卒業後、吸血鬼界の本部直属となる『特殊警備隊』という部署で見習いとして働くことが決まっている。
……人間の世界にある職業で例えるなら、対吸血鬼専門の警察官、みたいなもの。
主に、自らの強力な能力や、抑えきれなくなった吸血衝動によって暴走してしまった吸血鬼を取り締まり、社会の秩序を守るための組織らしい。
………天音くんとも、本当に色んなことがあった。
すれ違ったり……命がけの事件にも巻き込まれたけれど。
あの時手を離さずに、絶対に諦めないで本当によかったと心から思う。
「まさか秋斗も飛び級で俺と同じとこ来るのは予想外すぎたけど」
天音くんが呆れたように言いながらチラリと後ろを振り返ると、そこにはビシッと制服を着こなした九条くんの姿があった。
「この調子で、お前より先に昇格してやるからな」
「は〜?俺が先だから」
相変わらずの調子で火花を散らし合う二人。
以前はお互いに背負っている立場があったからか顔を合わせるたびにピリピリとした一触即発の危険な空気を漂わせていたけれど、あの事件を乗り越えてからは、最高のライバル同士になっているみたい。
天音くんが今言っていたみたいに、本当ならまだ2年生のはずの九条くんは、なんと圧倒的な成績で飛び級をして卒業を決めてしまったのだ。
吸血鬼は元々、人間よりも遥かに優れた頭脳や身体能力を持っているとはいえ、学園中の誰もがこの異例の飛び級には驚愕していた。
で、九条くんも、天音くんと同じ『特殊警備隊』に志願したという。
口では文句ばかり言ってるけど…なんだかんだ言って二人は仲良しで、お互いを高め合える良い関係になれたみたいで本当によかった。


