「……ごめん。……でも、それはできない」
琥珀はふっと皮肉げに息を吐くと、わずかに首を傾げた。
「なんで?ねぇ胡桃さ、自分の立場本当にわかってる?」
椅子の脚を軋ませて、琥珀がじりっと一歩、私との物理的な距離を詰めてくる。
「……俺たちが厳重に守るって言ってるのに。ここにいれば安全だし、何一つ不自由もさせない。この事件が綺麗に終わるまで、俺が守ってあげるよ?」
差し出された琥珀の声は、不自然なくらいに甘く、優しい。
そのまま手がすっと伸びてきて、私の前髪に触れようとした。
「……っ、琥珀、」
思わず身を引こうとしたけど、琥珀の声が耳元で優しく溶けるように響く。
避けるよりも早く、琥珀の冷たい指先が私の前髪をすくい上げた。
「……胡桃は甘いよ。どうせまた、赤羽叶兎を信じてるとか、そういうおめでたい綺麗事言うんでしょ」
「……っ、綺麗ごとなんかじゃ──」
「……ねえ、なんでそこまで彼を信じられるの?」
言い返そうとした私の言葉を遮るように、琥珀の声のトーンがガラリと変わった。
今までの、偽物の甘さの皮を一枚ずるりと剥ぎ取ったような、低く押し殺した冷たい響き。


