「……魅了が効かない?天音の能力は吸血鬼にも人間にも作用するはずでしょ」
「…うん。だから変なんだ。血筋の強い吸血鬼に抵抗されることはあっても、かすりもしないなんて相手は胡桃っち意外に今まで一度も会ったことない」
時雨くんの眉間の皺が、さらに深く刻まれる。
「……あの男もガスを吸っていたはずなのに無事だった。天音の能力も効かない。…まるで、胡桃と同じ」
時雨くんの射抜くような視線が私を捉えた。
会議室の空気が凍りつく。
「……私と同じ無効化持ち、ってこと…?」
…もしそうなら、あの男の人は純混血の人間ってことになる。
「いや、でも、ありえないでしょ。人間なら、叶兎に首を掴まれてデスクに叩きつけられた衝撃で首の骨が折れるか、良くて気絶してるはず」
天音くんは椅子の背もたれに深く体を預け、空虚な目で天井を仰いだ。
…本当に無効化を持っているなら、敵は「吸血鬼の天敵」とも言える性質を持った得体の知れない怪物だということになる。
その時だった。
コンコン、と静寂を破る控えめなノックの音が響く。
時雨くんが鋭く振り返り、全員が緊張した面持ちで扉を凝視した。
「お取り込み中、失礼致します」
現れたのは白髪の執事だった。
丁寧に一礼しているものの、その表情には隠しきれない緊張の色が混じっている。
「お客様がお見えです。お約束のない方なのですが…………楪琥珀様と名乗られております」


