【胡桃side】
一方、本部屋敷。
時計の針が深夜を回り、静まり返った室内には大きなテーブルの上に広げられた地図や資料の紙が重なり合う音だけが響いていた。
中心に立つ時雨くんが、手元のペンで地図に印をつけていく。
「まず確認。あの地下施設の入口は一箇所。そこには厳重な生体認証ゲートが設置されている」
「……となると、正面突破は現実的じゃないな」
蓮水さんが腕を組み、横から身を乗り出すようにして地図を覗き込んだ。
「当然。だから他の侵入経路を探る。…ただ、あのガスみたいな罠には対策が必要かな。……胡桃、さっき何か気づいたことない?」
急に名前を呼ばれ、私はハッとして顔を上げた。
何か手掛かりになるものはないかとさっきの出来事を思い出す。
「……あのガス、吸血鬼にだけ効くものだったと思う。天音くんも叶兎くんも一瞬で意識を失ったのに、私だけはなんともなかった。……吸血鬼と人間で、そんなに綺麗に効果が分かれるものなんて、普通にあるのかな?」
時雨くんのペンがピタリと止まる。
「……ただの薬学者が作るガスに、そんな種族を選別するような真似はできないと思う。もしそれが本当なら……」
「つまり、あいつの能力が絡んでる…?」
九条くんがぼそりと呟く。
「…こういうタイプの能力者は珍しいけど、全くいないわけじゃない。」
時雨くんがそう言うと、重苦しい空気の中、ソファにぐったりと横たわっていた天音くんが重い体を起こした。
「……それとあいつ、俺が本気で魅了を使っても全く効かなかったよ」
全員の視線が、一斉に天音くんに集中した。


