「……胡桃に手出したら殺すぞ」
剥き出しの敵意。
でも怯むどころか、男はさらに深く笑みを深めた。
「怖いなぁ。でも安心して。あの子も大事なサンプルだから、丁寧に扱うよ。今はね。」
「……サンプル、ね。ふざけたことを」
叶兎は視線を低く落とし、手首にかかった拘束具に意識を集中させた。
身体能力の極限まで高めて、力任せに金属を左右に引く。
ミシミシ、と鉄が悲鳴を上げ始めるが、拘束具はびくともしない。
「あ、無理しない方がいいよ。それ対吸血鬼の特別製だから。君でも壊すのに数分はかかるんじゃない?」
男は実験動物の観察でもするように、叶兎のあがきを余裕の表情で見守っている。
でも、叶兎の口元が不敵に歪んだ。
「数分ありゃ十分だろ」
その瞬間、バキッ、と嫌な音。
右手首の拘束具に亀裂が入った。
数分どころか、数秒で。
「……は?」
男の柔和な笑みが、初めて固まった。
拘束具を食い千切るようにして、叶兎の右手が自由を手に入れる。
飛び散った金属の破片が白衣を掠めた。


