【No side】
深い山奥に佇む廃墟の地下──。
白衣の男は、まるでお気に入りのコレクションを愛でるような手つきで、ぐったりとした叶兎を硬い金属製の椅子に座らせた。
カチャリ、と無機質な音が静寂に刺さる。
その手首を固定したのは、吸血鬼の怪力すら封じ込める特殊合金製の拘束具。
それは肉体に食い込むほどきつく、逃げ場を完全に奪っていた。
「お目覚めはいかがかな、赤羽くん」
男は楽しげに声をかけると、伏せられていた叶兎の長い睫毛が微かに揺れた。
叶兎は目を開け、赤い瞳に怒りが滲む。
「……最悪の気分」
男はその声を心地よい音楽でも聞くかのように、くすくすと肩を揺らして笑った。
「それはよかった。じゃあ、少しお話しようか」
男は叶兎の正面にゆっくりと腰を下ろすようにしてしゃがみ込んだ。
男の眼鏡の奥にある瞳は、知的な輝きとは裏腹に、底の知れない狂気で濁っている。
「君の彼女……あの子は本当にすごいね。驚いたよ。僕が心血を注いで作ったあのガスの中でも平気な顔で立っていたんだから。……『無効化』という能力は、相変わらず、僕が思っていたよりもずっと奥が深くて、魅力的だ」
恍惚とした表情で彼女の名前を呼ぶ男の言葉が、叶兎の逆鱗に触れた。
ガリッ、と椅子の肘掛けが軋む音が鳴り響く。


