「……叶兎なら多分、すぐに殺されることはない。もし目的が殺しなら、わざわざ手間をかけて攫ったりしない」
それは私を励ます言葉というより、自分自身に言い聞かせているような、祈りに似た声だった。
「……そう、だよね」
それでも、心配で。…叶兎くん…。
私は震える声で同意したけれど、胸の奥の不安は消えない。
「…でも、叶兎が捕まったなんて話が広まったら洒落にならない。特警の一部の上層部には伝えるけど、できる限り少人数で叶兎を救出したい」
「……少人数で、か。正直キツいな」
蓮水さんが前を見据えたまま、ハンドルのグリップを強く握る。
「…わかってる。でも本部の連中に知られたら面倒なことになる。吸血鬼トップの後継が攫われたなんて、上の老人どもが黙ってるわけない」
「……政治の話かよ」
九条くんが心底嫌そうに吐き捨てた。
「そう、政治。だからまず、中の構造をある程度把握してから動く。侵入ルート、罠の有無、あの男の戦力。もう少し情報が欲しい」
「…私、なにか出来ることはある…?」
膝の上でギュッと握り拳を作って、私は時雨くんを見つめた。


