「……どうする。一旦撤退して作戦を立て直すか?」
運転する蓮水さんの意見は、至極真っ当だった。
相手の戦力もわからず、罠が張り巡らされているかもしれない場所。
しかも叶兎くんを人質に取られ、ただでさえ少ない人数の仲間のうちの天音くんも万全ではない。
この状態で突っ込むのは、あまりにリスクが高すぎる。
…っでも、叶兎くんが、あんなおかしな男と一緒にいるなんて……一秒だって耐えられない……。
時雨くんは苦渋に満ちた表情で顎に手を当て、精神を集中させた。
彼の固有能力──空間把握。
「半径五百メートル圏内に建物は四つ。うち二つは廃業したリゾートホテルとスキー場の管理棟。残り二つは…………あった。」
時雨くんがパッと目を開いた。
「廃墟の地下に空洞がある。かなり広い。…ただ、入口に生体認証ゲートのような何かがある」
「生体認証?」
思わず聞き返す。
こんな山奥の、誰にも見向きもされない廃墟に、そんな最新鋭のセキュリティが?
「あの男の能力が何なのかもわかってない。…中に入った瞬間にこっちの侵入がバレる可能性がある。」
「……さっきのガスは、多分あいつの固有能力じゃないよ。装置から出てた。」
後部座席でぐったりしていた天音くんが、重い口を開いた。


