「……ごめん、足引っ張って」
天音くんの声には、いつもの軽薄な明るさが一ミリもなかった。
階段を一段上がるごとに苦しそうに息を吐き、その足取りはおぼつかない。
「喋らなくていい。体力温存して」
正面玄関にたどり着くと、運転席の蓮水さんが、手早く車のドアを開けて手招きしている。
後部座席に天音くんを押し込むように座らせ、私は助手席へ飛び乗った。
「全員乗ったな。……行くぞ、ここからは時間との勝負だ」
アクセルが力いっぱい踏み込まれ、車は夜の街を猛スピードで駆け抜けた。
私は助手席でスマホを操作し、GPSを追い続ける。
光る点は止まっていない。
あの男は、叶兎くんを乗せたまま車で移動しているんだ。
…でも、街の灯りが消え、鬱蒼とした木々が月光を遮る山道に入った頃。
「…っ、消えた…?」
画面上の光る点が…突如としてプツリと消滅した。
「……電波が届かなくなったか、あるいは…気づかれたか」
九条くんの冷静な指摘が、冷たく突き刺さる。
車内に重苦しい沈黙が落ちた。
窓の外は、真っ暗な森が壁のように続いている。


