「……困ったな。」
男が頬をかき、本気で困ったように肩をすくめる。
「その子を離してくれれば、君には何もしない。本当だよ。」
嘘か本当かわからない。
でも私には選択肢が残されていなかった。
能力を使おうにも対象が多すぎる上に、今から無効化を使ったところで2人とも眠ってしまっていて間に合わない。
その時、叶兎くんが微かに残る意識でポケットから携帯を取り出し、私の手に押し付けた。
「……叶兎くん…?」
「……これを、時雨に……」
時雨くんに、渡せってこと…?
いったいどういう……。
「何、こそこそやってるの?」
男が一歩踏み出した。
男が叶兎くんの腕を掴み、軽々と担ぎ上げる。
この細身の体のどこに、そんな力が隠されているのか。
「叶兎くん──!」
叶兎くんの薄れゆく意識の中で、ほんの一瞬だけ目が合った。
大丈夫、と唇が動く。
……え…?
それだけを残して、彼は完全に脱力した。
男は叶兎くんを肩に担ぎ上げ、裏口へ向かう。


