「やっぱり君には効かないんだね、…最高だよ、朝宮さん。」
男が目を輝かせて私を見た。
叶兎くんの指が、男の首から力なくずるりと離れる。
「……く、るみ……逃げ──」
そのまま、叶兎くんの体が床に崩れ落ちた。
天音くんも壁にもたれかかるようにして意識が朦朧としている。
男は服の乱れを直しながら、ゆっくりと叶兎くんに近づいた。
「叶兎くんに触らないで…っ!!」
私は無我夢中で、倒れた叶兎くんの前に飛び込んだ。
この男、普通じゃない。
こんな人に叶兎くんを渡す訳には…!
「……へぇ。」
男は立ち止まって、興味深そうに私を見下ろす。
「勇敢だね。でも状況、わかってる?君以外の全員が眠ってる。君一人で何ができる?」
背後で叶兎くんのかすかな呼吸音。
生きてはいる……けど起きない。あの叶兎くんが。
「俺は君を傷つけるつもりはないよ。だから、どいてくれないかな。」
男が優しい声と共に手を差し出した。
でもその手は、さっきガスと針を撒いた同じ手。
また…私、何もできないの…?
私は、意識を失った叶兎くんをぎゅっと抱きしめた。


