【side叶兎】
会場のきらびやかな照明も、楽しげなジャズの旋律も、今の俺にはただ煩わしいだけのノイズでしかなかった。
手にしたワイングラスを、中身を一口も飲まないままテーブルの端に置く。
更衣室、廊下、ロビー……。
さっきから何度も視線を走らせているが、胡桃の姿は見当たらない。
ポケットからスマホを取り出すと、画面には五件の未読通知が並んでいた。
指先が画面の上で、迷うように止まる。
………どこに行ったんだよ、胡桃。
──数時間前、射撃スペースで胡桃が走り去っていった後。
あの時の胡桃の、今にも壊れそうな泣き顔。
伸ばしかけた俺の手は届かないまま空を切り、呼び止める声は無情にも閉まった扉に遮られた。
……すぐにでも追いかければよかった。
そう思っているのに、その時の俺は一歩も動けなかった。
手の中に残された銃を見つめ、胸の奥で煮えくり返るような苛立ちを、低く舌打ちして吐き出す。
「……追わないのか」
背後から、橘が淡々と問いかけてきた。
感情の読み取れない声…それが余計に俺の神経を逆撫でする。
「……お前に関係ない」
突き放すように返したが、全く動じる様子もない。


