総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ




【side叶兎】




会場のきらびやかな照明も、楽しげなジャズの旋律も、今の俺にはただ煩わしいだけのノイズでしかなかった。


手にしたワイングラスを、中身を一口も飲まないままテーブルの端に置く。



更衣室、廊下、ロビー……。


さっきから何度も視線を走らせているが、胡桃の姿は見当たらない。



ポケットからスマホを取り出すと、画面には五件の未読通知が並んでいた。

指先が画面の上で、迷うように止まる。



………どこに行ったんだよ、胡桃。




──数時間前、射撃スペースで胡桃が走り去っていった後。




あの時の胡桃の、今にも壊れそうな泣き顔。


伸ばしかけた俺の手は届かないまま空を切り、呼び止める声は無情にも閉まった扉に遮られた。



……すぐにでも追いかければよかった。

そう思っているのに、その時の俺は一歩も動けなかった。



手の中に残された銃を見つめ、胸の奥で煮えくり返るような苛立ちを、低く舌打ちして吐き出す。



「……追わないのか」



背後から、橘が淡々と問いかけてきた。

感情の読み取れない声…それが余計に俺の神経を逆撫でする。



「……お前に関係ない」



突き放すように返したが、全く動じる様子もない。