……別に、神代さんは何も特別なことはしていない。
会話の合間にグラスを差し出したり、上層部への紹介の際に軽く頭を下げたり。
それだけのはずだった。
でも、私の目は逃さなかった。
叶兎くんが何か言うたびに神代さんの反応が早いこと、視線がほんの少しだけ長く留まること。
仕事上の連携、と言われればそれまでだ。
でも。
女の勘は当たるんだよ。
神代さんのあの目は…。
「…………」
胃の底がずしりと重くなった。
周囲の華やかな笑い声も、グラスが触れ合う高い音も、すべてが遠い世界の出来事のように聞こえる。
……勝てない。
その思考が浮かんだ瞬間、自分で自分を殴りたくなった。
何に?…能力?美貌?地位?
最近は、吸血鬼の世間からも少しずつ認めてもらいつつあった。
でもそれは「無効化」の能力があるからだ。
………朝宮胡桃という人間を、本当に見てくれている人はいるのだろうか。


