ぐしっ、と服の袖で乱暴に目を拭う。
……分かってる。私がただの人間なのは変えられない事実。
どんなに願っても、吸血鬼たちの超人的な動きに追いつくことはできない。
夕方の風が、いっそう冷たくなってきた。
下の方からは、今夜開かれる懇親会パーティの準備をしているスタッフたちの声が遠く聞こえてくる。
またスマホの通知が光って、今度はメッセージが二件。
『ごめん。戻ってきて』
『こんな場所に一人にするのは心配』
その短い文面が、余計に胸を締めつけた。
「心配」なんて言葉で片付けないでほしい。
スマホを裏返しにしたまま、私はしばらく動けなかった。
返事は、まだ出せそうにない。
それから三十分が過ぎた。
日は完全に落ちて、屋上の冷気は容赦なく私の体温を奪っていく。
寒さに肩を震わせていると、四件目の通知が届いた。今度は琥珀から。
『風邪ひくよ~』
ただそれだけ、返信を催促する言葉も、同情するような甘い言葉もない。
琥珀らしいといえばそうかもしれない。
……でも、流石にずっとここにいるわけにもいかず、仕方なく私は冷え切った重い腰を上げた。


