「胡桃っ…!!」
後ろから呼ぶ声が聞こえる。
でも、私は止める言葉も無視して全力で廊下を駆け抜けた。
…別に行く当てもない。
でも、このぐちゃぐちゃな顔で知り合いに会うのは嫌。
建物の階段を無我夢中で駆け上がり、たどり着いたのは人気のない屋上。
重い扉を押し開けると、冷たい夕方の風が頬を打った。
「……っ、ふ、ううっ……」
フェンスに背を預けてその場に座り込むと、我慢していたものが一気に溢れ出す。
「……叶兎くんの、ばか…」
その時、スカートのポケットでスマホがぶるりと震えた。
涙で霞む画面を覗くと、そこには『赤羽叶兎』の文字。
着信に出る勇気なんてなくて、私はスマホを伏せてコンクリートの上に置いた。
涙は止まらなかった。
悔しいのか、悲しいのか…たぶん、両方。
神代さんの凛とした姿が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。
………神代さんが強いのは知っている。
綺麗で、冷静で、戦えて──でも、叶兎くんが彼女の名前を出すたびに、私の中に小さなトゲが刺さるような感覚があった。
「 ……私だって叶兎くんの役に立ちたい。隣で戦いたい。それだけなのに……」
危険な場面ではいつも後ろに置かれる。
「待ってて」と言われる。「ここにいて」と。
それが私を思っての優しさだと分かっているからこそ、何もできない自分が余計に惨めだった。


