…みんなに伝えなきゃ。
でも、ここで叫んだら、向こうに気づかれる。
みんなが九条くんの演じる偽物の神代さんに気を取られている間に本物の神代さんに隙を突かれる、それだけは何としても避けなきゃいけない。
私は咄嗟に、隣にいた叶兎くんの服の袖をぎゅっと引っ張った。
鋭い赤い瞳が、私を見つめる。
「どうしたの」
小さな声。二人にしか聞こえない距離で、必死に視線で訴えた。
その間にも、神代さん(九条くん)がじり、と間合いを詰めてくる。
「時間稼ぎは得意じゃないんだけど。」
驚くほどそっくりな凛とした声。
声色まで完璧にコピーしている九条くんの変装は、初見で見破るのは不可能に近い。
口をひらきかけたその時。神代さん(九条くん)の背後、通路の奥で空気が動いた。
幻覚で紛れていた神代さん本人が、音もなく扉へ向かって走っている。
彼女の狙いは「対象」の奪取──最初から、戦うことそのものよりも勝利条件の達成を優先していたんだ。
「叶兎くん、あっち!」
私が指差した方向は、みんなが見えている神代さん(九条くん)とは別の位置。
でも、それだけで理解してくれたかのように。
「天音、左!」
「了解!」
天音くんの身体が弾丸みたいな速度で飛びだした。
見えている神代さん(九条くん)には目もくれず、虚空に向かって突っ込む。


