総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ





頭では分かっている。

神代さんは仕事をしているだけだし、普通にいい人だ。

真面目で、優秀で、距離感もきちんとしている。何も間違っていない。



──だからこそ、厄介だった。


自分のこの感情が、ただの「嫉妬」だと気づいてしまうから。



私なんかよりも仕事ができて、強くて、綺麗で……。

なにより、吸血鬼で。

人間の私には、どう足掻いてもその場所には辿り着けない。


ふと、神代さんと目が合った。

数秒の沈黙の後、彼女は静かに資料を閉じる。



「……朝宮さん。」

「……はい?」

「私は、あなたの代わりではありません。」



びくっとした。

そんなことを言われると思わなかったから。


神代さんはコーヒーカップを持ち上げて一口含んだ。



「叶兎さんが私の前で肩の力を抜いているように見えるのは…あの方にとって私が「仕事の道具」だからです。」



淡々とした声だった。

慰めでも謙遜でもない。ただの事実を述べるように。



「仕事とプライベートを一緒にしないでください」



それだけ言って、神代さんはダイニングを後にした。


あまりに図星すぎて、ぐうの音も出ない。

私はただ、冷え切ったパンケーキを見つめるしかなかった。