頭では分かっている。
神代さんは仕事をしているだけだし、普通にいい人だ。
真面目で、優秀で、距離感もきちんとしている。何も間違っていない。
──だからこそ、厄介だった。
自分のこの感情が、ただの「嫉妬」だと気づいてしまうから。
私なんかよりも仕事ができて、強くて、綺麗で……。
なにより、吸血鬼で。
人間の私には、どう足掻いてもその場所には辿り着けない。
ふと、神代さんと目が合った。
数秒の沈黙の後、彼女は静かに資料を閉じる。
「……朝宮さん。」
「……はい?」
「私は、あなたの代わりではありません。」
びくっとした。
そんなことを言われると思わなかったから。
神代さんはコーヒーカップを持ち上げて一口含んだ。
「叶兎さんが私の前で肩の力を抜いているように見えるのは…あの方にとって私が「仕事の道具」だからです。」
淡々とした声だった。
慰めでも謙遜でもない。ただの事実を述べるように。
「仕事とプライベートを一緒にしないでください」
それだけ言って、神代さんはダイニングを後にした。
あまりに図星すぎて、ぐうの音も出ない。
私はただ、冷え切ったパンケーキを見つめるしかなかった。


