「いや、別に。もう終わったし。」
「どこがだよ。」
この叶兎くんと時雨くんのやりとりももはや日課だ。
神代さんはコホンと咳払いを一つして、空気を切り替えた。
「では、業務の話をさせてください。こちらの資料、本日中に目を通していただきたいのですが」
資料を渡された瞬間、叶兎くんの表情が仕事モードに切り替わった。
空気が一変して、さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら、彼は資料をめくりながら神代さんと事務的なやり取りを始めた。
その切り替えの速さに、私はただ圧倒されてしまう。
「……ここの警備配置、もう少し詰められる?」
「はい。死角を三箇所潰せます。」
時雨くんは壁に寄りかかって腕組みしながら聞いている。
私はどこか取り残されたような気持ちで、空になったカップを両手で包んでいた。
侵入経路の想定、護衛シフトの時間割り振り、緊急時の連絡系統。二人の間で交わされる言葉は的確で無駄がなかった。
「朝宮さんの行動パターンを把握しておきたいのですが、普段の生活スケジュールを教えていただけますか?」
「……あんまり細かく管理する必要はないよ。基本的には俺がそばにいるし。」
「承知しています。ですが、万が一に備えてです。」
神代さんが私の方を向く。
私が口を開こうとすると、叶兎くんがさっと手で制した。


