総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ





【side琥珀】





──ヴァンパイアハンター本部。

月宮市の東端にひっそりと佇むその屋敷は、一見すると吸血鬼たちの本部と変わらない、手入れの行き届いた広い庭を持っている。


……けれど、その門を一歩くぐれば、中に流れる空気はまるで違う。

漂うのは花の香りではなく、冷徹な規律と、獲物を屠るための殺伐とした鉄の匂い。



俺は手慣れた動作で報告書をまとめ、無機質な長い廊下を歩いていた。

靴音がカツカツと硬く響く。



「えーっと、第七区画の能力暴走案件、対象は鎮圧済み。被害は民家の外壁損壊のみ。以上、報告終わり。」



事務室に入り、デスクに座る上司の前で書類をぽんと放り出す。


いつものように軽い口調、いつものように不真面目そうな笑みを貼り付けて。

上司は眼鏡の奥の鋭い瞳でちらりと書類に目を通すと、ゆっくりと顔を上げた。



「楪。お前、昨日も現場で特定の吸血鬼、および民間人と接触しているな」

「……あー、まあ。」



心臓がわずかに跳ねるのを表情一つ変えずにやり過ごす。

俺が正式な報告を上げる前に、すでに現場の監視や目撃情報が本部に届いているのは想定内だ。



「報告が遅い」

「すいません。昨日はちょっと立て込んでて、俺も疲れちゃってたんで」



……結局、昨夜はそのまま泥のように眠り、今朝になってようやく形だけの報告を済ませた。

本当なら、あの場で全てを終わらせておくべきだったのに。