走るたび、夜風が頬を切るように冷たい。
街灯が等間隔に流れていく。
本部から屋敷まで走れば十分。
息が上がる頃、見慣れた門が見えてきた。
玄関を開け、静まり返った廊下を進む。
リビングには昼間の賑やかさの残骸である皿やグラスが寂しげに取り残されていた。
二階へと上がり、俺たちの部屋の前で足を止める。
ドアノブに手をかけたまま、一度深く息を吐いた。
…寝てたら、起こしたくないな。
そう思い、気配を殺してゆっくりとドアを開ける。
カーテンの隙間から、細い月明かりが差し込んでいた。
ベッドの上からは、小さく規則正しい寝息が聞こえてくる。
胡桃は布団もかけず、横向きになって所在なげに体を丸めていた。
枕元には、俺からの連絡を待っていたのか、スマホが画面を伏せたまま置かれている。
足音を消してベッドに歩み寄りスーツのジャケットを脱ぎ捨てて、ネクタイを緩めながら布団をそっと彼女の体へと掛けた。
冷えた体を温めるように布団を整え、丸まった体を仰向けに直そうとした、その時。
「…………っ?」
胡桃の服の襟が少し乱れている。
しかもその下、鎖骨のあたりに、赤い痣のようなものが。
掴まれたような、痕?

