【side叶兎】
──深夜一時。
静まり返った夜道を、俺は急ぎ足で進んでいた。
頭上の街灯が、湿ったアスファルトをぼんやりと青白く照らし出している。
ようやく片付いた暴走事件の事後処理。
現場での状況報告、負傷者の確認、そして幹部連中への指示出し……。
気づけば数時間が経過し、日付を跨いでいた。
……せっかくみんなが集まってくれたのに。
その時、不意にポケットのスマホが震えた。画面には『一ノ瀬時雨』の二文字。
「……お疲れ、叶兎。まだ現場にいるなら車出す?」
「いや、いい。このまま走る。待たせてるから。そんなに遠くないし。」
短く答える。一刻も早く、屋敷へ帰りたかった。
「……待ってるっていうか、多分もう寝てるでしょ普通に」
時雨の冷静な指摘に、苦い笑いが漏れる。
それは、確かにそうだ。
でも、眠っていたとしても、一秒でも早く彼女のそばに行きたかった。
「それでもいい。じゃあ……」
「…………。」
そのまま通話を切ろうとした瞬間、受話器の向こうで時雨が不自然に言葉を呑んだ。
何かを言い淀むような、奇妙な沈黙。
「……時雨?」
「…………いや。なんでもない。気をつけて」
時雨はそれだけ言うと、問い詰める隙も与えず通話は切れた。
掌に残るわずかな違和感。
時雨が言葉を濁すなんて珍しい……けど、今の俺にはそれを深く考察する余裕なんてなかった。

