枕に顔を埋め、暗い部屋の中で一人、静かに涙が溢れた。
……考えちゃだめ。今日は、考えない。……だって、今日は叶兎くんの誕生日なんだから。
脳裏に浮かぶのは、あの時の琥珀の姿。
迷いなく銃を構えた横顔。琥珀だって、私と同じ人間なのに。
きっと琥珀には、琥珀の信念がある。
涙を拭ってゆっくり、体を起こす。
膝を抱えて、暗闇の中で自分の手のひらを見た。小さい、なんの能力もない、ただの人間の手。
……でも、この手で朔を助けられた。
無効化だけじゃない。できることは、きっとある。
窓からは月明かりが差していた。雲の切れ間から、まるい月が顔を出している。
…叶兎くんは、吸血鬼と人間が共存できる世界を作ろうとしてる。
私は、その隣にいたい。
いたいから、ここにいる。──今更怖いから逃げ隠れるなんて、そんなの、らしくない。
「……それになにより、叶兎くんが好きだから。」
口に出してみたら、不思議と心が定まった気がした。
震えが、少しずつ収まっていく。
緊張が解けた途端、急激な眠気が襲ってきた。
……瞼が重い。
抗えないまま、私はベッドに横たわった。
最後に一度だけスマホを確認したけど、通知はない。
それでも、さっきよりはずっと穏やかな気持ちで、私は深い眠りへと落ちていった。

