「……わかった、今はそれでいいよ。でも一個だけ約束して。当分は1人で出歩かないこと。…さっきみたいなやつ、今日だけじゃないよ。たまたま俺たちが巡回してたから良かったけど」
琥珀は差し出していた手を引っ込めると、私に貸していた上着を受け取り、乱暴に袖を通した。
「……あと、今日のこと、赤羽叶兎に言わないつもりでしょ」
「っ……」
心臓が跳ねた。……どうして。
「……どうしても、言わなきゃだめ……?」
今日は、大切な、叶兎くんの誕生日。
せっかくのみんなとのパーティーなのに。こんな話をして、彼の特別な日に水を差したくない。
「……ダメに決まってんじゃん」
琥珀の声から柔らかさが消え、ハンターとしての厳しい響きが戻る。
「あのさ、胡桃が言いたくないのはわかるよ。誕生日に水差したくないんでしょ」
なんで誕生日なのを知ってるのか、と思ったけど、琥珀のことだから全部調べているんだろう。
「……でも俺が報告しない理由にはならないから」
…それは、そうだ。ハンターとして、報告義務がある。
「…………わかった」
「……ん。………ま、強がれるうちは大丈夫か。戻んな、みんな心配してるよ」
琥珀は最後にもう一度、私の頭をぽんっと軽く叩いた。
「……うん。ありがとう。…………琥珀って、優しいね」
「……優しくなんかないよ。」
琥珀は少しだけ困ったように眉を寄せ、ふい、と視線を逸らした。
「じゃーね」とだけ言って、ひらひらと手を振りながら、夜の闇へと溶けていくように去っていった。
「…………優しかったらハンターなんかやってないっての。さっきの奴をあの場で始末しなかったのだって、俺らしくもない」
ぽつりと去り際に呟かれたその声は、私の耳に届く事はなかった。

