「……いつもなら、君の心臓はもう止まってるところだけど。……今日は女の子の前だしさ。俺も一応、慈悲深い人間でいたいからさ」
琥珀が片手で短く合図を送ると、どこに潜んでいたのか、屋敷の外から黒スーツを着た男たちが数人、音もなく現れた。
彼らは事務的な手つきで、抵抗する力を失った吸血鬼を拘束し、夜の闇へと連れ去っていく。
騒がしい足音が遠ざかり、庭にはまた、元の静寂が戻ってきた。
「はい、おしまい」
琥珀は手慣れた動作で銃の安全装置をかけると、くるりとこちらを振り返った。
さっきまでの殺気が嘘のように、何事もなかったかのような顔で首を傾げる。
「怪我は?噛まれてない?」
「あ……、う、ん……」
答えようとしたけど、急激に解かれた緊張のせいで膝に力が入らない。
ガクガクと震える足は重りをつけられたみたいに動かず、私はそのまま、地面にへたり込んでしまった。
「……あー」
琥珀は困ったように眉を下げて歩み寄ると、私の目の前で視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
瞳が、今はいつもの意地悪さを引っ込めて、どこか複雑そうに私を見つめている。
「……怖かった?」
ぽん、と私の頭に手を置いた。
乱暴でも、かと言って甘やかすような優しさでもない、どこか事務的で、でも不思議と落ち着くような。
ついさっきまで迷いなく引き金を引いていた人とは思えないほど、その手は温かかった。

