男のもう片方の手が私の肩をガッと力任せに押さえつける。
体格差がありすぎて、抵抗も虚しく茂みの奥へと引きずられていく。
叫ぼうとした。でも声が喉に張り付いたみたいに出ない。
こういう時、どうするんだっけ…っ。ぐるぐると思考を巡らせるけど、恐怖で何も考えられない。
そのままドン、と肩を木の幹に押し付けられて、背中に硬い樹皮が食い込んで息が詰まった。
男の顔が、すぐ目の前まで迫る。
狂気に満ちた表情で、異常なまでに伸びた鋭い犬歯が月光に照らされてギラリと光った。
これは能力暴走じゃない。
理性のタガが外れた、純粋な「吸血衝動」。
脳裏に、以前琥珀に言われた不吉な言葉が蘇る。
“ 「でもさ、吸血鬼には力じゃ敵わないでしょ?もし相手が吸血衝動が抑えられなくなったら、どうするの?」”
「……っ、たす、けて……!」
死を予感し、私は強く目を閉じた。
吸血鬼の顎が開き、鋭い牙が私の首筋に迫る──。
その瞬間。
パンッ……!! と、夜の静寂を切り裂くような乾いた音が響いた。
直後、肩を掴んでいた万力のような力が消失する。
恐る恐る目を開けると、男が横の植え込みへと派勢いよく吹き飛び、土埃を上げて地面を転がっていた。
「だから言ったじゃん」
微かに鼻を突く、ツンとした硝煙の匂い。
呆然として声のした方へ視線を向けると、そこには月明かりを背負った影が立っていた。

