「……っ!? 誰?」
弾かれたように振り返る。
そこに立っていたのは見知らぬ男だった。
黒いフードを目深に被り、肩を上下させて荒い息を吐いている。
「......あァ、人間か……っ…」
な、んで……敷地の中に。
入り口には厳重な警備がいる。勝手に入れるはずがないのに。
本能的に分かる──この人は吸血鬼だ。しかも、まともな状態じゃない。
明らかに様子がおかしい相手に身の危険を感じて逃げようとしたけど、それより早く、男の腕が私の手首を掴んだ。
「……っ、離して……!」
力が強すぎて振り解けない。
骨が軋むような圧迫感に、悲鳴を上げそうになる。
いつもみたいに「無効化」の力を発動しようと、意識を集中させるけど──それも発動しない。
何も、起こらない。
もしかしてこの人……能力は、使ってない……?
…ただ血を求める衝動に支配されているだけなら、私の「能力無効化」は意味をなさない。
フードの奥から覗く縦長の瞳が、獲物を品定めするように私を見下ろしていた。
「......恨むならっ……アイツを恨めよなァ……ッ……散々、こき使いやがって……」
苦しそうに喘ぎながら、男は私を逃さない。
アイツ……?
その言葉が何を指しているのか考える余裕もなかった。

