ゴールデンウィーク期間中とはいえ平日のため道は空いている。
透が凪から聞いていた見合いの開始時間よりも早く到着した。
途中で見とがめられないよう、透と渡はスーツを、雫は制服を着用している。
渡は車を料亭近くのパーキングに止めた。
渡は車窓越しに空を睨んで、能力を発動させる。
最初はしとしと、やがてザアザアと雨は強くなる。
三人はうなずき合って、傘を広げた。
料亭の周囲はビルに囲まれていて、雨のせいもあり静かだった。
喧噪も車の音も何もかもが遠く聞こえ、渡には自分の心臓の音だけがやけに大きく響いた。
三人は傘で顔を隠しつつ、料亭の裏手へ回り込む。
一瞬たりとも立ち止まらず、宗輔に教わった搬入口付近まで進んだ。
雫が小さく頷き、空を見上げる。
――雨が一気に強まった。
三人は素早く搬入口横のインターフォンに暗証番号を叩き込む。
そこで雫は傘を受け取り茂みの中へ入り、渡と透は何食わぬ顔で店内へ入った。
二人は目立たないように、できるだけゆっくりと歩いた。
渡は分かれ道で一瞬だけ顔を上げた。
透が頷き、先に進む。
渡は曲がってさらに進んだ。
その先に、猿渡と滝草がいた。
しかし滝草は譲の秘書ではなく、雨水本家に仕える滝草家本家の秘書官だった。
「……こんばんは」
渡が無声音で声をかけると、猿渡が目を細めて渡を見下ろした。
「こんばんは、雨水渡様」
たぶん、凪から渡のことを聞いていたのだろう。
焦る様子はないが、代わりに場所を明けることもない。
「渡様、なぜこちらに」
滝草の方はそうはいかなかった。
目をすがめて、完全に咎める表情だ。
「理由は、頭領から聞いてませんか?」
「……お察ししますが、お引き下がりください。佳貴様のためでございます」
「佳貴兄さんの幸せだか自尊心だかのために、愛する彼女を犠牲にはできない」
「しかし」
「ここで揉めているほうが外聞が悪いんじゃないのか。いきなり入ったりしないから、様子だけでも見せてほしい」
渡は滝草を真っ直ぐに見た。
滝草が返事に詰まったのを見て、渡はふすまの隙間から室内を覗き込んだ。
右側に月詠家、左側に雨水家が並んでいるのが見えた。
それぞれ、一番奥に父親、真ん中が見合いをする当人、手前に母親が座っている。
……手前の母親同士の殺気があまりにも強く、渡は思わず背筋を伸ばした。
しかしその向こうの佳貴と凪を見て、渡は唇を噛んだ。
佳貴は自信満々の笑顔で、月詠の頭領を見ていた。これほど気が強そうな佳貴を見るのは初めてかもしれない。
一方で凪は顔を真っ青にして俯いていた。華奢な肩が震えていて、渡からは見えないものの、きっと小さな拳は骨が浮くほど強く握りしめられているのだろう。
渡は唇を噛み、耳を澄ませた。
各家の父親同士が談笑している。
時折、美凪子夫人が貴生を鋭く睨んでいた。
そのたびに貴生は肩を震わせたが、気丈に月詠家の頭領との談話を続けていた。
プライドの使いどころが間違っている。
渡はため息をついた。
きっと、貴生も佳貴も同じなのだろう。
渡は一度目を閉じた。
聞こえるのは月詠家頭領の低い声と、遠くで響く雨音だけだ。
いっそ怒りに任せて料亭を雨で押し流したいほどだが、もちろんそんな真似はしない。それでは何も解決しない。
渡は深呼吸をして、立ち上がった。
滝草に動きを制止される前に、渡は目の前の扉を開けた。
透が凪から聞いていた見合いの開始時間よりも早く到着した。
途中で見とがめられないよう、透と渡はスーツを、雫は制服を着用している。
渡は車を料亭近くのパーキングに止めた。
渡は車窓越しに空を睨んで、能力を発動させる。
最初はしとしと、やがてザアザアと雨は強くなる。
三人はうなずき合って、傘を広げた。
料亭の周囲はビルに囲まれていて、雨のせいもあり静かだった。
喧噪も車の音も何もかもが遠く聞こえ、渡には自分の心臓の音だけがやけに大きく響いた。
三人は傘で顔を隠しつつ、料亭の裏手へ回り込む。
一瞬たりとも立ち止まらず、宗輔に教わった搬入口付近まで進んだ。
雫が小さく頷き、空を見上げる。
――雨が一気に強まった。
三人は素早く搬入口横のインターフォンに暗証番号を叩き込む。
そこで雫は傘を受け取り茂みの中へ入り、渡と透は何食わぬ顔で店内へ入った。
二人は目立たないように、できるだけゆっくりと歩いた。
渡は分かれ道で一瞬だけ顔を上げた。
透が頷き、先に進む。
渡は曲がってさらに進んだ。
その先に、猿渡と滝草がいた。
しかし滝草は譲の秘書ではなく、雨水本家に仕える滝草家本家の秘書官だった。
「……こんばんは」
渡が無声音で声をかけると、猿渡が目を細めて渡を見下ろした。
「こんばんは、雨水渡様」
たぶん、凪から渡のことを聞いていたのだろう。
焦る様子はないが、代わりに場所を明けることもない。
「渡様、なぜこちらに」
滝草の方はそうはいかなかった。
目をすがめて、完全に咎める表情だ。
「理由は、頭領から聞いてませんか?」
「……お察ししますが、お引き下がりください。佳貴様のためでございます」
「佳貴兄さんの幸せだか自尊心だかのために、愛する彼女を犠牲にはできない」
「しかし」
「ここで揉めているほうが外聞が悪いんじゃないのか。いきなり入ったりしないから、様子だけでも見せてほしい」
渡は滝草を真っ直ぐに見た。
滝草が返事に詰まったのを見て、渡はふすまの隙間から室内を覗き込んだ。
右側に月詠家、左側に雨水家が並んでいるのが見えた。
それぞれ、一番奥に父親、真ん中が見合いをする当人、手前に母親が座っている。
……手前の母親同士の殺気があまりにも強く、渡は思わず背筋を伸ばした。
しかしその向こうの佳貴と凪を見て、渡は唇を噛んだ。
佳貴は自信満々の笑顔で、月詠の頭領を見ていた。これほど気が強そうな佳貴を見るのは初めてかもしれない。
一方で凪は顔を真っ青にして俯いていた。華奢な肩が震えていて、渡からは見えないものの、きっと小さな拳は骨が浮くほど強く握りしめられているのだろう。
渡は唇を噛み、耳を澄ませた。
各家の父親同士が談笑している。
時折、美凪子夫人が貴生を鋭く睨んでいた。
そのたびに貴生は肩を震わせたが、気丈に月詠家の頭領との談話を続けていた。
プライドの使いどころが間違っている。
渡はため息をついた。
きっと、貴生も佳貴も同じなのだろう。
渡は一度目を閉じた。
聞こえるのは月詠家頭領の低い声と、遠くで響く雨音だけだ。
いっそ怒りに任せて料亭を雨で押し流したいほどだが、もちろんそんな真似はしない。それでは何も解決しない。
渡は深呼吸をして、立ち上がった。
滝草に動きを制止される前に、渡は目の前の扉を開けた。



