透はようやく渡から手を離して、車に乗り込んだ。
渡も続いて乗り込み、カバンからタオルを出して透に差し出した。
外の雨が強くなり、黒い雲が低くゴロゴロと音を立て始めていた。
「帰宅なさいますか?」
運転席の滝草が淡々と尋ねた。
透はタオルで顔を覆ってしまっていたので、渡が頷いた。
「うん、お願い」
「かしこまりました」
車が走り出すと、透は赤い目をしょぼしょぼさせながら外を見ていた。
渡も透も黙ったまま車に揺られ、マンションのロータリーで我に返った。
「ところで兄さん、いつ帰国したのさ」
「さっき。家に帰ったら渡がもうすぐ帰るって聞いたから迎えに行ったんだよ」
「そうなんだね。助かった」
「詳しく聞かせろよ。なんだって月詠のお嬢様と付き合うことになったんだ?」
透は赤い目のままニヤニヤしながら車から降りた。
渡も車を降りて、透と並んだ。
「図書館で殴られそうになってたところを助けた」
「月詠のお嬢様が? 日本ってそんなに治安悪かったっけ……?」
二人で話しながら帰宅すると、雫が出てきた。
「お兄ちゃんたちおかえりー。かわいい妹にお土産は?」
「もちろんある。俺にも本家が何で揉めてるか教えてくれ」
「渡の彼女を佳貴くんが横取りしようとしたから」
透と雫は盛り上がりながら、さっさとリビングに行ってしまった。
渡は苦笑してから、歌帆の部屋に向かった。
「母さん、渡です。今いい?」
「はいはい、おかえり。……本家はどうだった?」
歌帆はゲーミングチェアをくるりと回し、渡に向き直った。
その向こうではパソコンとモニターが複数光っていて、渡はいつも母が何をしているのか、よくわからない。
「耳が早いね。揉めてたよ」
渡は先ほどの佳貴との揉め事、そして貴生との会話を歌帆に報告した。
歌帆は眉間にしわを寄せて渡を見上げた。
「……そう。佳貴くんの暴走だけが原因って訳でもないのね」
「そうみたい。貴生伯父さんがあんなにストレスを溜めてると思わなかった」
「そりゃ、なくはないでしょうけど……うーん」
「母さんと父さんはどうなのさ」
渡がつい尋ねると、歌帆は薄く笑った。
「ノーストレスとはいかないわよ。でも、相手を出し抜こうとは思わないわねえ。知ってるでしょ、母さんと父さんがラブラブなの」
「知ってるけど」
そう言い切れるほどに仲が良くても、ストレスがないわけじゃないんだな。
渡は不思議に思ったが、それを歌帆に追及する気にはなれなかった。
ふと窓を見ると、雨もひどいが雷もかなり鳴っていた。
「貴生さん、荒れてるのね」
「この雷、まさか貴生伯父さんが?」
「ええ、旧姓は雷坂。雨水の親戚筋だけど、能力の発動条件が厳しいから、あまり繁栄しなかったのよね」
「そうだったんだ……」
「でも、雨水と組むと強いでしょ」
歌帆はニヤッと笑った。その笑みの意味が分からない渡ではない。
雨水はもともと後ろ暗い家業に手を染めていた過去があった。
時代を遡れば、国の内外を問わず敵地の田畑を豪雨で流して兵糧を絶つようなこともできたし、川嵩を増して町ごと流すこともできた。……そこに雷を加えれば、流さずとも直接焼くことができるわけだ。
未だに雨水をよく思わない勢がいなくならない理由である。
「でも、美佳さんはあれで穏健派ですからね。暗殺なんかしないし」
「現代日本で聞きたくなかった単語だ」
「渡の頭はお花畑かしら。凪ちゃんを守りたいなら、もうちょっとしゃんとしなさいな。月の治安は家の中ほど良くないわよ」
渡も続いて乗り込み、カバンからタオルを出して透に差し出した。
外の雨が強くなり、黒い雲が低くゴロゴロと音を立て始めていた。
「帰宅なさいますか?」
運転席の滝草が淡々と尋ねた。
透はタオルで顔を覆ってしまっていたので、渡が頷いた。
「うん、お願い」
「かしこまりました」
車が走り出すと、透は赤い目をしょぼしょぼさせながら外を見ていた。
渡も透も黙ったまま車に揺られ、マンションのロータリーで我に返った。
「ところで兄さん、いつ帰国したのさ」
「さっき。家に帰ったら渡がもうすぐ帰るって聞いたから迎えに行ったんだよ」
「そうなんだね。助かった」
「詳しく聞かせろよ。なんだって月詠のお嬢様と付き合うことになったんだ?」
透は赤い目のままニヤニヤしながら車から降りた。
渡も車を降りて、透と並んだ。
「図書館で殴られそうになってたところを助けた」
「月詠のお嬢様が? 日本ってそんなに治安悪かったっけ……?」
二人で話しながら帰宅すると、雫が出てきた。
「お兄ちゃんたちおかえりー。かわいい妹にお土産は?」
「もちろんある。俺にも本家が何で揉めてるか教えてくれ」
「渡の彼女を佳貴くんが横取りしようとしたから」
透と雫は盛り上がりながら、さっさとリビングに行ってしまった。
渡は苦笑してから、歌帆の部屋に向かった。
「母さん、渡です。今いい?」
「はいはい、おかえり。……本家はどうだった?」
歌帆はゲーミングチェアをくるりと回し、渡に向き直った。
その向こうではパソコンとモニターが複数光っていて、渡はいつも母が何をしているのか、よくわからない。
「耳が早いね。揉めてたよ」
渡は先ほどの佳貴との揉め事、そして貴生との会話を歌帆に報告した。
歌帆は眉間にしわを寄せて渡を見上げた。
「……そう。佳貴くんの暴走だけが原因って訳でもないのね」
「そうみたい。貴生伯父さんがあんなにストレスを溜めてると思わなかった」
「そりゃ、なくはないでしょうけど……うーん」
「母さんと父さんはどうなのさ」
渡がつい尋ねると、歌帆は薄く笑った。
「ノーストレスとはいかないわよ。でも、相手を出し抜こうとは思わないわねえ。知ってるでしょ、母さんと父さんがラブラブなの」
「知ってるけど」
そう言い切れるほどに仲が良くても、ストレスがないわけじゃないんだな。
渡は不思議に思ったが、それを歌帆に追及する気にはなれなかった。
ふと窓を見ると、雨もひどいが雷もかなり鳴っていた。
「貴生さん、荒れてるのね」
「この雷、まさか貴生伯父さんが?」
「ええ、旧姓は雷坂。雨水の親戚筋だけど、能力の発動条件が厳しいから、あまり繁栄しなかったのよね」
「そうだったんだ……」
「でも、雨水と組むと強いでしょ」
歌帆はニヤッと笑った。その笑みの意味が分からない渡ではない。
雨水はもともと後ろ暗い家業に手を染めていた過去があった。
時代を遡れば、国の内外を問わず敵地の田畑を豪雨で流して兵糧を絶つようなこともできたし、川嵩を増して町ごと流すこともできた。……そこに雷を加えれば、流さずとも直接焼くことができるわけだ。
未だに雨水をよく思わない勢がいなくならない理由である。
「でも、美佳さんはあれで穏健派ですからね。暗殺なんかしないし」
「現代日本で聞きたくなかった単語だ」
「渡の頭はお花畑かしら。凪ちゃんを守りたいなら、もうちょっとしゃんとしなさいな。月の治安は家の中ほど良くないわよ」



