月のうさぎと地上の雨男

 外ではまだ雨がしとしと降り続いている。

 渡が空を見上げると、凪がつないだ手をきゅっと握った。

 暗く垂れ込めていた雲が、じわじわと薄くなっていく。


「……すごい、雨が上がっていく」

「行きましょう」

「どこに?」

「月が綺麗に見える場所に」


 凪に手を引かれて、渡がたどり着いたのは海だった。

 砂浜はしっとりと濡れて、足音も聞こえない。

 凪がゆっくりと空を見上げた。

 つられて渡も見上げると、雲が切れ切れに晴れていく。

 やがて、月が昇った。


「きれいだ」

「そうでしょう。私の故郷です」

「明月さんは、どうして地球に来たの?」

「父の仕事の都合です」

「月に戻りたい?」

「……どっちでもいいです。地球も悪くないから」

「そっか。戻るなら、連れて行ってもらおうかと思ったんだけど」


 凪が渡を見上げた。

 赤く光る瞳を見て、渡は口を開く。


「月がきれいだね」

「……そうですね。でも、私雨も好きですよ。静かでいい匂いがします。また雨の日にデートしてください」

「うん。いつでも」


 どちらからともなく顔を寄せ、一瞬触れて離れた。

 しばらく月を眺めて、黙ったまま歩き出す。

 凪を彼女の家の最寄り駅まで送ってから、渡は一人で電車に乗った。

 手が、寂しい。


「……連絡先、聞くの忘れた」


 呟いてから、窓の外を眺める。

 月が追いかけてくると、話には聞いていたけど本当だった。

 初めて見た月は、とても美しくて、少し怖いくらいだった。

 いつか、自分だけのものにしたい。

 渡は月をじっと見つめる。