凪と映画を見に行く約束の日、渡はマンションのロータリーに向かった。
すぐに月詠家の車がやってきて、猿渡がドアを開けてくれた。
「渡くん、おはよう!」
「おはよう、凪。今日もかわいい格好してるね」
今日の凪は長めのワンピースにショート丈のダウンを合わせていた。
耳の下で揺れるツインテールと、白いもこもこしたダウンがウサギのようだと渡は思う。
車がショッピングモールの屋上の駐車場に止まり、凪は笑顔で飛び出していく。
「渡くん、こっちだって!」
「待って、凪。映画は逃げないから」
「楽しみにしてたの!」
小走りの凪に手を引かれながら、渡は映画館に向かう。
ショッピングモールの最上階が映画館なので、二人は並んでエスカレーターを下った。
「実はね、エスカレーターもあまり乗ったことがないの。だから手つないでてね」
「そうなんだ!? そっか、うん。つないでる」
映画館は休みの日ということもあり混んでいた。
渡が凪を見ると、少し不安そうに腕にしがみついている。
「映画のチケット、買いに行こうか」
「予約しておかなくてよかったんだよね?」
「うん。ペアシートに座りたかったんだけど、予約ができないんだ」
凪の手を握り直して、渡はチケットカウンターへ向かった。
幸いペアシートが三列空いていたので、真ん中を渡が買い、前後を猿渡と蟹沢で購入する。
「パンフレットを買いに行っていい?」
渡が聞くと凪はキョトンと首を傾げた。
「パンフレット?」
「うん。今から観る映画のパンフレットを買いたいんだ。妹から頼まれてて」
「あのね、パンフレットってなに?」
「映画の内容とか、出演者や監督の情報が載った冊子……かな」
「なるほど……? 私も買おうかな」
「じゃあ、飲み物やポップコーンも一緒に買っちゃおうか」
渡が凪の手を引いて並ぼうとしたところで、猿渡がすっと遮った。
「申し訳ございません、お嬢様、雨水様。映画館での飲食はお控えください」
「なんで?」
凪が唇を尖らせた。
「安全が確認できないからでございます」
「みんな食べてるのに?」
「万が一がございますので。ご理解ください」
渡はできるだけ穏やかに微笑んで凪を覗き込んだ。
「映画の後に、近くのカフェ行こうよ。映画とのコラボメニューがあるんだって」
「そういった場所でしたら、メニューにもよりますがお召し上がりいただけます」
「……わかった」
「じゃあ、パンフレット買いに行こうか」
まだふくれている凪の手を引いて、渡は歩き出した。
申し訳なさそうに頭を下げる猿渡には、「かまわない」と首を振って応えた。
「ごめんね、渡くん」
「凪が謝ることなんてなにもないよ」
「……私が普通じゃないから」
「そうだね。俺は凪のことを普通だなんて思ったことないよ」
凪は一瞬悲しそうな顔で渡を見上げたが、すぐに顔を赤くした。
「渡くん、言わなくていい、大丈夫だから」
「俺にとって凪は特別な女の子だからさ。こうやって一緒にいるだけですごく幸せだし、普通なんてこと全然ないよ」
「言わなくていいって言ってるのに。……ありがとう、渡くん」
パンフレットを二冊買って、渡と凪はシアターに入った。
席は空いていて、一列にせいぜい一組か二組くらいしかいない。
ペアシートは二人で並んでも余裕のある広いソファだが、二人はぴったりくっついて真ん中に座った。
渡がぱらぱらとパンフレットをめくっていると、凪もパンフレットを開いて熱心に読んでいた。
パンフレットには今人気の若手俳優が多く出演しているらしいことや、原作に忠実にストーリーを再構成したことなどが書かれていて、正直言えば渡はまったく興味ない。ただ、熱心にパンフレットに目を通す凪は、とても普通の女子高生に見えた。
おそらく、渡が帰宅して妹にパンフレットを渡したら、同じように熱心にめくるのだろう。
凪は環境が普通じゃないだけで、こうしている分には十分普通の女の子だった。
やがてシアター内が暗くなっていった。
凪がそわそわとパンフレットを片付けて渡の手を握る。
渡も握り返して、凪に寄り添いスクリーンを見上げた。
すぐに月詠家の車がやってきて、猿渡がドアを開けてくれた。
「渡くん、おはよう!」
「おはよう、凪。今日もかわいい格好してるね」
今日の凪は長めのワンピースにショート丈のダウンを合わせていた。
耳の下で揺れるツインテールと、白いもこもこしたダウンがウサギのようだと渡は思う。
車がショッピングモールの屋上の駐車場に止まり、凪は笑顔で飛び出していく。
「渡くん、こっちだって!」
「待って、凪。映画は逃げないから」
「楽しみにしてたの!」
小走りの凪に手を引かれながら、渡は映画館に向かう。
ショッピングモールの最上階が映画館なので、二人は並んでエスカレーターを下った。
「実はね、エスカレーターもあまり乗ったことがないの。だから手つないでてね」
「そうなんだ!? そっか、うん。つないでる」
映画館は休みの日ということもあり混んでいた。
渡が凪を見ると、少し不安そうに腕にしがみついている。
「映画のチケット、買いに行こうか」
「予約しておかなくてよかったんだよね?」
「うん。ペアシートに座りたかったんだけど、予約ができないんだ」
凪の手を握り直して、渡はチケットカウンターへ向かった。
幸いペアシートが三列空いていたので、真ん中を渡が買い、前後を猿渡と蟹沢で購入する。
「パンフレットを買いに行っていい?」
渡が聞くと凪はキョトンと首を傾げた。
「パンフレット?」
「うん。今から観る映画のパンフレットを買いたいんだ。妹から頼まれてて」
「あのね、パンフレットってなに?」
「映画の内容とか、出演者や監督の情報が載った冊子……かな」
「なるほど……? 私も買おうかな」
「じゃあ、飲み物やポップコーンも一緒に買っちゃおうか」
渡が凪の手を引いて並ぼうとしたところで、猿渡がすっと遮った。
「申し訳ございません、お嬢様、雨水様。映画館での飲食はお控えください」
「なんで?」
凪が唇を尖らせた。
「安全が確認できないからでございます」
「みんな食べてるのに?」
「万が一がございますので。ご理解ください」
渡はできるだけ穏やかに微笑んで凪を覗き込んだ。
「映画の後に、近くのカフェ行こうよ。映画とのコラボメニューがあるんだって」
「そういった場所でしたら、メニューにもよりますがお召し上がりいただけます」
「……わかった」
「じゃあ、パンフレット買いに行こうか」
まだふくれている凪の手を引いて、渡は歩き出した。
申し訳なさそうに頭を下げる猿渡には、「かまわない」と首を振って応えた。
「ごめんね、渡くん」
「凪が謝ることなんてなにもないよ」
「……私が普通じゃないから」
「そうだね。俺は凪のことを普通だなんて思ったことないよ」
凪は一瞬悲しそうな顔で渡を見上げたが、すぐに顔を赤くした。
「渡くん、言わなくていい、大丈夫だから」
「俺にとって凪は特別な女の子だからさ。こうやって一緒にいるだけですごく幸せだし、普通なんてこと全然ないよ」
「言わなくていいって言ってるのに。……ありがとう、渡くん」
パンフレットを二冊買って、渡と凪はシアターに入った。
席は空いていて、一列にせいぜい一組か二組くらいしかいない。
ペアシートは二人で並んでも余裕のある広いソファだが、二人はぴったりくっついて真ん中に座った。
渡がぱらぱらとパンフレットをめくっていると、凪もパンフレットを開いて熱心に読んでいた。
パンフレットには今人気の若手俳優が多く出演しているらしいことや、原作に忠実にストーリーを再構成したことなどが書かれていて、正直言えば渡はまったく興味ない。ただ、熱心にパンフレットに目を通す凪は、とても普通の女子高生に見えた。
おそらく、渡が帰宅して妹にパンフレットを渡したら、同じように熱心にめくるのだろう。
凪は環境が普通じゃないだけで、こうしている分には十分普通の女の子だった。
やがてシアター内が暗くなっていった。
凪がそわそわとパンフレットを片付けて渡の手を握る。
渡も握り返して、凪に寄り添いスクリーンを見上げた。



