月のうさぎと地上の雨男

 渡は凪の手を引き、売店で靴下とクラゲ模様のスニーカーを買った。

 ついでにヒトデのシャツも選んで購入した。


「あの、お金……」

「俺が濡らさせちゃったからいいよ。気になるなら、夜に綺麗な月を見せて」

「わかりました。ありがとうございます。ところで、なんでクラゲとヒトデなんですか?」

「クラゲって海の中の月みたいだろ。ヒトデは英語でスターフィッシュだし」

「なるほど……?」


 渡は、着替えを終えた凪から濡れた靴と靴下の入った袋を受け取り、空いた手をそっと取って歩き出した。

 二人は暗い水族館を言葉少なに進んでいく。

 マンタとイワシの泳ぐ大きな水槽の前で立ち止まったとき、渡がふと凪を見下ろすと、凪も同じように渡を見つめていた。


「なに?」

「雨水さんも天気のことで怒られたりしますか?」

「するよ。運動会とか遠足で天気が悪いと全部俺のせいだ」

「理不尽ですよね」

「まあでも、いいこともあった」


 渡がいたずらっぽく笑うと、凪がきょとんとした。


「なんでしょう?」

「雨の日にかわいい女の子を助けたら、その子と人生初のデートをしてる。今さらだけど、水族館に来るのは俺で良かった?」
「……はい。あなたで良かった」


 凪は渡から視線を外して水槽を見つめた。

 海藻がゆらゆらと漂い、その間をイワシの群れが泳ぎ回っていた。


「さっきの男の人は?」

「クラスメイトです。今日が晴れだったら、彼氏になっていたかもしれません」

「そっか」

「雨でよかったです。勘違いで叩いてくるような人と付き合いたくないから。それに」


 言いかけた凪を渡が覗き込むと、つないだ手が強く握られた。


「雨水さんと水族館に来られました。水族館、来てみたかったんです。名前のせいで晴れ女だと思われて、外遊びにばかり誘われていたけど、本当は水族館とか映画館とか、そっちのほうが好きなんです」

「……今度、映画に誘っていい? えっと、月が見たいときに」

「月が見たくなくても、誘ってくれていいです」


 二人はまたゆっくり歩き出した。

 カラフルな熱帯魚の水槽や、大きなサメが水面を揺らす水槽、ウツボが岩陰で目を光らせる水槽を次々と巡り、渡と凪は再び売店まで戻ってきた。


「そろそろ夕方ですし、外に出ましょうか」

「うん」