月のうさぎと地上の雨男

「ごめん、早かったね」


 信号待ちで、ようやく渡はそのことに気づいた。


「い、いえ、すみません、遅くて」

「ううん。俺の気が利かなかった」


 渡は手を伸ばして凪の傘を閉じる。

 閉じた傘を凪に渡し、空いた手で凪の手をそっと握った。


「気をつけるけど、それでも早かったら言ってね」

「えっ、あ、はい……」

「どしたの、顔が赤いけど」

「いえ、雨水さん慣れてますね」

「うん。妹がいるから」

「あー……そういう……」


 遠い目をした凪に、渡は首を傾げながら歩き出した。

 雨は相変わらずしとしとと静かに降り続いている。
 二人は手をつないだままバスに乗り、電車を乗り継いで水族館までやってきた。

 チケット売り場で渡は改めて凪を振り返った。


「今更なんだけど、誘拐とかにならない? 明月さん、いくつ?」

「十六です」

「高校生?」


 渡はほっと息をつき、凪を見下ろした。

 月人は地球人より小柄で、年齢がわかりにくい。(逆に月人から見れば地球人は大きくて、やっぱり年齢がわかりにくい)


「はい。雨水さんはおいくつですか?」

「十八。春に大学生になった」

「二歳差なら誘拐ではなくデートではないでしょうか」


 顔を赤らめ、おずおずと見上げる凪に、渡は思わず目を丸くした。


「デートなんてしたことないな」

「そうなんですか? 雨水さん、かっこいいのに」

「初めて言われた。ほら、俺と出かけると雨になるからモテないんだ。明月さんはかわいいね」

「それって……いえ、ありがとうございます」


 渡と凪はそれぞれ学生証を提示して入場券を買った。互いの学生証を見て、二人は目を見開いた。


「雨水さん、先輩じゃないですか」

「ほんとだ。明月さん、うちの高等部生だったんだね」


 再び手を取り合い、二人は水族館へと入っていった。

 館内は暗く、ゆったりと時間が流れている。

 凪がかすかに震えて、渡は顔を覗き込んだ。


「寒い?」

「少しだけ」

「さっき足元濡れちゃったからか。先に売店行こう」