月のうさぎと地上の雨男

 ――この世界では、家系ごとに名前に由来する能力を持つ。

 渡の苗字は雨水(うすい)。読んで字のごとく雨を降らせることができるため、農村では重宝され、渡の兄は砂漠地帯に雨を呼ぶために諸外国を飛び回っている。



明月(あけつき)家の家系能力は夜空を晴らし、月を明るく輝かせるものです。でも夜に空を晴らせるなら昼間もできるんじゃないか、なんて言われて……」


 渡は図書館のエントランスにあるベンチで凪と並び、外を見ていた。

 さあさあと静かに降り注ぐ雨は、外の景色をぼやけさせている。

 唇を尖らせて雨垂れを見つめる凪の瞳には長いまつ毛の影が落ち、そこに何が映っているのか渡には見えなかった。


「わかるよ。俺は雨水渡。雨を降らせる家系能力だけど、降らせられるなら、止ませることもできるんじゃないかって言われるし、都合の悪い雨は全部俺のせいだ」


 凪は困ったように笑って、渡を見上げた。

 その顔を見て、渡は微笑んだ。


「ねえ、頼みがあるんだけど」

「なんでしょうか」

「俺、月を見たことないんだよね」

「えっ、ないんですか!?」


 渡の言葉に、凪は大きな目をさらに見開いた。


「うん。見ようとすると雨になっちゃうんだ。だからさ、俺に月を見せてよ」

「……わかりました。助けていただいたお礼に、月人の晴れ力をお見せします」


 凪が笑うと、渡は静かに目を細めた。


「かわりに、私もお願いしてもいいですか?」

「うん?」

「水族館に行ってみたいのですが、連れて行ってくれませんか」

「いいよ、行こう」


 渡が立ち上がると、凪も後を追うように立ち上がった。

 並んで傘を差して図書館を出た。

 しかし、渡と凪では足の長さが違い、少しずつ距離が開いていった。そのたびに凪が小走りで追いかけてきた。

 雨の中を走ったせいで、凪の足元はびしょ濡れになっていた。