披露宴の最中、渡は時々凪の席に目を向けた。
五回に一度くらい、凪と目が合う。
父に気づかれないかと気を揉みつつも、つい彼女を見てしまう。
「渡」
「ん、なに?」
隣に座る宗輔がひそひそと声をかけてきた。
「さっきから、月のお姫様、こっち見てない?」
「……気のせいだろ」
「そうかなあ」
渡は宗輔から目を離して、手元のナイフで魚を切り分ける。
正直、渡には味がほとんどわからなかった。
この間違いなく美味しい食事を、本当は凪と向かい合って二人きりで味わいたかった。
さっきまで怒っていた彼女は、今は澄ました顔でフォークとナイフを持って、黙々と食事を続けている。
もし、渡と向かい合って食事に臨んだら、あの月の女の子はどんな顔をするのだろう。
「おいしいね」
そう言って笑ってくれるのだろうか。
そんな詮ない思考を抱えながら、渡は機械的に食事を口へと運んでいった。
魚の皿を空にしたら、宗輔が渡と皿をすり替えようとして風間の頭領にこっそり蹴られていた。
やがて、披露宴が終わった。
会場を出た後はまた挨拶回りだ。
渡は譲の後に続き、今後付き合いがあるであろう相手の元を回って頭を下げた。
顔と名前を必死に叩き込み、ようやく終える頃には渡の頭は疲れ果てて、なにも考えられなくなっていた。
「晴原と風間とちょっと話してくるから、その辺で待ってろ」
「おーう」
渡は披露宴が行われたホテルのエントランスにあるラウンジへ移動した。
やたら小さなコーヒーと、それに合わせたように小さなケーキが渡の前に運ばれてくる。
ケーキを食べ終える頃になって、ようやく霞んでいた頭がはっきりしてきた。
……そこでやっと、渡は正面に男性が座っていることに気がついた。
「……えっと……護衛の方、でしょうか?」
渡が無声音で尋ねると、正面の男性は小さく頷いた。
体格のいい黒のスーツ姿で、肩幅も身体の厚みも渡の倍はあるように見える。
ただ座っているだけなのに、その圧に渡は思わず身震いした。
渡に確信はなかったが、おそらく凪のボディガードの一人なのだろう。
披露宴の前後、凪の後ろに立っていた記憶がある。
「よくお気づきでいらっしゃいますね。気配を消しておりましたが」
「雨水の特技なんです。雨の中でも人を見つけないといけないので」
「なるほど。こちら、我が君からの信書でございます。お受け取りいただけますか?」
「ちょうだいいたします」
差し出されたのは、先ほどの披露宴で使われていた席札だった。
『月詠 凪様』と金の文字が光っている。
二つ折りになったそれを開くと、中にはニャインIDが手書きで走り書きされていた。
「……これ、僕が受け取って大丈夫ですか? その、首が飛んだり、家の取り潰しとか、そういう危険はありませんか?」
渡が思わず尋ねると、ボディガードは目を見開いて、面白そうな顔になった。
「ふふ、しっかりなさっていらっしゃる。我が君にも見習っていただきたいくらいだ」
「そういう家系なもので」
五回に一度くらい、凪と目が合う。
父に気づかれないかと気を揉みつつも、つい彼女を見てしまう。
「渡」
「ん、なに?」
隣に座る宗輔がひそひそと声をかけてきた。
「さっきから、月のお姫様、こっち見てない?」
「……気のせいだろ」
「そうかなあ」
渡は宗輔から目を離して、手元のナイフで魚を切り分ける。
正直、渡には味がほとんどわからなかった。
この間違いなく美味しい食事を、本当は凪と向かい合って二人きりで味わいたかった。
さっきまで怒っていた彼女は、今は澄ました顔でフォークとナイフを持って、黙々と食事を続けている。
もし、渡と向かい合って食事に臨んだら、あの月の女の子はどんな顔をするのだろう。
「おいしいね」
そう言って笑ってくれるのだろうか。
そんな詮ない思考を抱えながら、渡は機械的に食事を口へと運んでいった。
魚の皿を空にしたら、宗輔が渡と皿をすり替えようとして風間の頭領にこっそり蹴られていた。
やがて、披露宴が終わった。
会場を出た後はまた挨拶回りだ。
渡は譲の後に続き、今後付き合いがあるであろう相手の元を回って頭を下げた。
顔と名前を必死に叩き込み、ようやく終える頃には渡の頭は疲れ果てて、なにも考えられなくなっていた。
「晴原と風間とちょっと話してくるから、その辺で待ってろ」
「おーう」
渡は披露宴が行われたホテルのエントランスにあるラウンジへ移動した。
やたら小さなコーヒーと、それに合わせたように小さなケーキが渡の前に運ばれてくる。
ケーキを食べ終える頃になって、ようやく霞んでいた頭がはっきりしてきた。
……そこでやっと、渡は正面に男性が座っていることに気がついた。
「……えっと……護衛の方、でしょうか?」
渡が無声音で尋ねると、正面の男性は小さく頷いた。
体格のいい黒のスーツ姿で、肩幅も身体の厚みも渡の倍はあるように見える。
ただ座っているだけなのに、その圧に渡は思わず身震いした。
渡に確信はなかったが、おそらく凪のボディガードの一人なのだろう。
披露宴の前後、凪の後ろに立っていた記憶がある。
「よくお気づきでいらっしゃいますね。気配を消しておりましたが」
「雨水の特技なんです。雨の中でも人を見つけないといけないので」
「なるほど。こちら、我が君からの信書でございます。お受け取りいただけますか?」
「ちょうだいいたします」
差し出されたのは、先ほどの披露宴で使われていた席札だった。
『月詠 凪様』と金の文字が光っている。
二つ折りになったそれを開くと、中にはニャインIDが手書きで走り書きされていた。
「……これ、僕が受け取って大丈夫ですか? その、首が飛んだり、家の取り潰しとか、そういう危険はありませんか?」
渡が思わず尋ねると、ボディガードは目を見開いて、面白そうな顔になった。
「ふふ、しっかりなさっていらっしゃる。我が君にも見習っていただきたいくらいだ」
「そういう家系なもので」



