月のうさぎと地上の雨男

 ある雨の日、雨水渡(うすい わたる)が図書館に入ると女の子が怒鳴られていた。


「晴れ女じゃねえのかよ、騙しやがって!!」

「だから、違うって」

「うるせえ!」


 怒鳴っていた男が腕を振り上げる。

 渡は咄嗟に傘を放り出し、女の子を庇った。


「痛え……」

「んな、誰だよお前! ……割って入ってきたのはそっちだからな!!」


 男は捨て台詞を残し、ドカドカと足音を響かせて図書館から出ていった。

 渡は体を起こした。

 少女はパーカーとふわりと広がるスカートを履いていて、オーバーサイズな服のせいで、脚がいっそう細く見えた。渡が強く抱えたら折れてしまいそうなほどだっだ。


「ごめん、重かったね」

「い、いえ、いえ……! ごめんなさい、巻き込んでしまって!」


 見上げた少女は背丈は渡より頭一つ分小さく、アーモンド型の大きな目はほんのり赤みがかっている。


「えっと……君、月出身?」

「はい。つ……明月凪(あけつき なぎ)といいます」

「明月さんは怪我してない?」

「私は全然……。あの、叩かれたところ、怪我してませんか?」

「たぶん大丈夫」


 渡は笑みを浮かべて、凪から離れた。

 凪が落ちた傘を拾って差し出した。


「あの、なんで助けてくれたんですか?」

「雨のせいで怒鳴られてたから。俺も身に覚えがある」


 渡がそう告げると、凪は今にも泣き出しそうな表情を見せた。