わかっていた。だけど、想定外だった。
凪はいつもそれなりに正しく恋をしていて、彼女という存在がいた。だから、凪のことを好きじゃない子とキスをするなんてありえないと思っていた。
どういう状況で、どういう成り行きで、どんな女の子で。そんなことは聞かない。聞かなくたって、なんとなくわかってしまう。
わたしに送られるその視線が〝失恋〟を物語っていたから。
「……ねえ、凪」
同性からも異性からも、おなじように好かれる素敵なひと。凪が失恋だなんて、今までなかったと思う。
……どうしたらその視線はいつもの明るさに戻るだろう。
「……!?」
距離、1センチ。ゼロにしたのはわたしのほうだ。
「わたしも、今した」
最低だって嘆くなら、わたしも同じように〝最低〟になるから。
「は、花鈴──」
「……なぐさめて、あげる」
凪の言葉を封じる。わたしの言葉で上書きする。震えた声と手を隠すように、ぎゅ、と彼のシャツにシワを作った。
「慰めてあげるよ、凪のこと」
恋心なんて、邪魔だ。
きみのそばにいられるのなら、そんなのいらない。
「わたし、もうまっすぐなだけじゃない」
どうか自分を責めないで。
背伸びしたわたしに気がつかないで。
もし、もしも気付いたならば、
ずっと、流されていて。
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