いつも優しく穏やかな矢野先生の、知らない顔。知らない視線。紛れもなく、そんな表情にさせたのはわたしだ。
手首を固定されて動かせなくて、恐怖がわたしの身体の中を満たす。声なんて出ない、抵抗なんて、できない。
「自分に興味ない女を落とすのが趣味なんだけど、おまえはだるすぎ。つい最近も幼なじみにぞっこんな女いたけど、女ってなんでこんなに初恋に執着するわけ」
氷点下を連想させる低いトーンと、強い言葉。わたしは何も言い返せなかった。先生は何もわるくない。わたしがわるかった。
温度のない双眸で見下ろされながら、ブラウスのボタンがひとつふたつと外されてゆく。鎖骨のあたりを長い指がなぞるのを他人事みたいに見ていた。声すら、出ない。
「これ見せてさ、おまえら関係壊れればいーよ?だいじょうぶ、俺、むりやりする趣味ねーの」
触れられていた鎖骨の感覚が、変わる。指が生ぬるいざらつきになった。誰からもされたことのないような刺激は、くすぐったさから痛みに移る。



