「手、つめたいね」
それは予告もなく、突然に。
ローテーブルに広げていた参考書、無造作に置かれたマーカー。先生はすでにペンを置いていて、わたしの手を確かめるように包み込んだ。冷えた手先にじーんと広がっていく温もりが、どうしたって凪と違う。
「となりいってもいい?」
語尾にくっつけたクエスチョンマークは置字でしかなかった。返答する間もなく、正面に座っていた先生がわたしのとなりに移動した。
なんとなく、心臓が嫌な音を立てる。いい予感は、しなかった。彼は恋人で、悪が連想されることなんて本来ないのに。わたしの中の認識機能はそんなふうに自分自身の感覚を形容した。
「ちょ、っと、近いです、」
「なんで?いや?」
「嫌ではないですけど、慣れてなくて」
「かわい」
嫌なのは、おかしい。だから嫌じゃない。先生のことはきらいじゃない。
わたしと彼は恋人同士で、家族以上のパーソナルスペースを許すことも自然なことだろう。だけど、身構えてしまう。



