「さっきのひとって、彼女?」
「あー……うん、そう」
すこしだけ、居心地わるそうな返答。それでもその答えが事実で、あの女の人が彼女であることは変わらない。
凪に彼女がいるなんて今に始まったことじゃない。中学のときからいままで、ずっとだ。けれどこういう状況を目の当たりすることが今までなくて、思考が奪われて機能しない。
彼女、という言葉がふわんふわんとバウンドして、頭のなかを彷徨い続けている。ふたりのキスが壁紙のようになって四方に貼り付いていた。
「そっか、きれいなひとだね、」
「うん、でも、」
目線を落としながら、何かを言いたかけた。けれどすぐ、閉ざされてしまった。
「なんでもない。花鈴、これありがと」
「……どういたしまして。またね、凪」
そのまま背を向けた。凪の視界からすぐに消えなければ、身勝手にも溜まった涙に気づかれてしまうから。
彼女と同じ言葉で背を向けたのは無意識だった。それほど、頭のなかを巡っていた。



