椿が席を立とうとしたのは、 店の喧騒がほんの少しだけ遠くに 感じられた瞬間だった。 時計を見るふりをして、 グラスをテーブルに置く。 長居するつもりは、最初からなかった。 「……そろそろ帰ろうかな。」 そう声をかけると、 弥生が一瞬だけ視線を上げた。 「もう?」 その声には、引き留める色が滲んでいた。