口元に浮かぶのは、 客に向ける、完璧な微笑。 背中には、余計な感情を一切残さない。 ――仮面を、被る。 城崎蓮という仮面を。 黒服に促され、彼は席を離れていく。 一歩、また一歩。 椿は、その背中を追わなかった。 椿は、グラスに指をかけながら思う。 九条ではなく、城崎に。 “仕事としての顔”へ。 それは、正しい選択だ。 だからこそ―― 胸の奥が、少しだけ疼いた。 店内に、再び喧騒が満ちる。 誰もが演じ、 誰もが欲を抱え、 誰もが仮面をつけている。