「分かってます。」 「だったら」 「だからこそ、です。」 弥生は、言葉を失った。 腕を解くこともできず、 引き寄せる理由も、もう隠せない。 仮面を外した男と、 まだ仮面を外さない女。 その距離は、近すぎるほど近いのに、 決定的な一線だけが、まだ残っていた。 ――それが、たまらなく気に入らない。 (近々、か。) 弥生は、椿の横顔を見つめながら思う。 (それまで、正気でいられる気がしない。)