気が付けば、私は自分の教室にたどり着いていた。

どうやって来たのかは、あまり覚えていない。

ただ、先ほどまでの目の前の光景が悔しすぎて…でも、友達の初恋を祝ってあげられない自分が醜くて…。

その場から逃げるように、走り去ったような気がする。

ホームルームが始まる。教室に他の生徒と、その保護者たちが集合した。

教室に男が入ってくる。「今日からこの一年二組を担当することになった、[蝶野 浩介(ちょうの こうすけ)]だ。よろしくな!」陽気な声が教室中に響きわたる。保護者たちが軽い拍手をした。

だが、私にはそんなことはどうでもよかった。後ろの席を見やる。

そこにはあの、こまりを奪った憎き男が座っていた。

イライラする。知らないうちに手の甲を引っ掻いていたのか、みみず腫の様に赤く腫れ上がっていた。

私は一旦、気持ちを静めようとして深呼吸をして目線を蝶野先生の立っている教卓に送った…そのときだった。

今、一瞬、蝶野先生と目が合った気がした。ただそれだけ、誰かと目が合うなんて生きていればよくあること!それなのに、どうして…。

どうして私の体に、こんなに鳥肌が立っているの?

手の温度が下がり、少しずつ汗ばんでいく。私は蝶野先生の目をもう一度見る。

目は合わなかった。蝶野先生は保護者たちへの愛想笑いを浮かべながらも、確実にとある場所に目線を送っていた。私の後ろの席だ。

そこに誰がいるかなんて、嫌でも分かる。私がこの世でもっとも嫌いな…あの男なのだから。

後ろを振り返る勇気はなかった。なんとなくだけれど…この蝶野浩介という人物があの男に送る視線は生徒へ送るものとは思えない、冷たい目線のように感じられた。