その日、環奈が隠れ家カフェを訪れると、滝本はいなかった。
「そういえば、以前、西山さん、私が、ハンバーグを家で作ったら一味足りなかったって話をしたとき、
『一味足りないか。
なんだろうな』
っておっしゃってましたけど。
……その一味、わかるはずなかったですね。
作ってなかったんですから」
環奈はそう言ったが、西山は、
「いや、材料の買い出しには行ってるからな。
特殊なものがあればわかるんだが」
と言う。
「あいつは表に出たくないから、存在を悟られるようなことを嫌うんだ。
作ってるの、俺じゃないとか言いづらいだろ」
そう彼が言った瞬間、真横にコックコートの新浜が立っていた。
「環奈さん、その一味、教えたら、結婚してくれる?」
「えっ?
偽装でいいですか?」
と思わず言ってしまう。
「偽装?」
と小首をかしげられた。
何故、いきなりその言葉が出て来たのかと思ったのだろう。
いや、私にはそれが日常なんですが、と環奈は思う。
偽装結婚を申し込んだのは俺が先だとかぬかしていたので、こんなことを言ったとバレたら、怒られるかもしれないが。
なんで、その一味を知りたいのかと言うと、課長が知りたがっていたからだ。
「まあ、でも、なにが足らないのかわからないから」
材料、一から言ってってくれる?
と新浜に言われ、環奈は、
「お待ちください。
作ったのは、ほぼ課長なので」
とスマホを手にとった。
「だから、君らはどうなってんの」
と西山に言われる。



